マッチングアプリのドタキャンでキャンセル料は請求できる?法的な可能性と必要証拠
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はじめに:ドタキャンで終わらせない。被った損害への法的な視点
マッチングアプリを通じて新しい出会いを期待し、楽しみにしていたデートの約束が、一方的なドタキャンによって水泡に帰してしまう。このような経験は、精神的なショックだけでなく、予約していた店舗のキャンセル料や、遠方に向かうために手配した交通費といった、無視できない金銭的な損害を残すことがあります。
多くの方が、こうしたトラブルを単なる「恋愛のトラブル」や「マナー違反」として諦めてしまいがちです。しかし、実際に発生した金銭的な損害は、本当に泣き寝入りするしかないのでしょうか。
この問題に法的な視点から光を当てると、約束の内容や状況、そして発生した損害の性質によっては、その回復を法的に求めることができる可能性が見えてきます。
この記事でわかること
この記事では、マッチングアプリ上で交わされたデートの約束が、法的にどのような位置づけになるのかを解説します。具体的に、ドタキャンによって発生したキャンセル料や交通費などの金銭的損害を請求できる可能性と、その実現のために不可欠となる証拠の集め方について詳しく説明します。さらに、このようなトラブルに直面した際に、私たち専門家がどのようにサポートを提供できるのか、その具体的な役割についてもご紹介します。不当な損害を受け入れてしまう前に、冷静かつ適切な法的手続きの道筋を確認していきましょう。
架空事例:約束を破られた際の具体的な損害発生
これは、法律問題を考察するための架空の事例です。
地方都市に住む会社員のCさんは、マッチングアプリで知り合ったDさんと初めて会う約束をしました。二人は、お互いの居住地の中間にある人気の温泉旅館を予約し、日帰りの温泉と食事を楽しむことで合意しました。旅館の予約はCさんが行い、高額な予約金として二名分の食事と入浴料の合計額五万円を事前にクレジットカードで支払いました。メッセージ上では、Dさんもその予約に乗り気で、「当日会えるのを楽しみにしている」「費用は当日半分払う」という意思を明確に示していました。
しかし、約束の二日前の夜、Dさんから「急に家族の病気が見つかったので行けなくなった」というメッセージが届きました。Cさんは心配しましたが、その後のDさんからの連絡は一切途絶えてしまいました。Cさんが旅館にキャンセルを申し出たところ、キャンセルポリシーに基づき、支払った予約金五万円全額がキャンセル料として徴収されてしまいました。Cさんは、Dさんに対して予約金の半額二万五千円の負担を求めましたが、返信はありません。
この事例におけるCさんが被った損害は、旅館のキャンセル料です。Dさんが費用を半分支払うことに合意していたにもかかわらず、一方的なドタキャンによって全額の損失を被ってしまいました。このような場合、CさんはDさんに対して、法的に金銭の請求ができるのでしょうか。この問題の鍵は、二人の約束が「契約」と見なされるかどうか、そしてドタキャンという行為が法的な責任を伴うかどうかにかかっています。
マッチングアプリでの「約束」は法的にどう解釈されるか
原則は社交的合意と契約の違い
友人との食事の約束や、遊びの誘いといった日常的な約束は、法的には「社交的な合意」として扱われることが一般的です。これは、当事者間に法的な権利義務の発生を目的としていないため、約束が破られても、原則として法的な手段で損害賠償を求めることはできません。一般的なデートの約束も、多くはこの社交的合意の範疇に入ります。
しかし、「契約」と見なされる条件もあります。民法上の契約は、当事者間の合意によって成立します。マッチングアプリのやり取りであっても、金銭の授受を伴う明確な合意があった場合や、予約金の共同負担について具体的な意思表示があった場合など、経済的な要素が伴うときには、「諾成契約」として成立している可能性があります。先の事例のように、「費用は当日半分払う」という具体的な合意がメッセージとして残っている場合、その予約に関する合意は単なる社交的な約束を超え、契約として成立していると判断される余地が出てきます。
損害賠償請求の根拠となり得る法理論
仮に約束が契約として成立している場合、ドタキャンは契約を履行しない「債務不履行」として、民法に基づき損害賠償請求の根拠となります。
一方で、契約の成立が明確でなかったとしても、請求の根拠となり得るのが「不法行為」です。これは、故意または過失によって他人に損害を与えた場合に生じる法的な責任です。ドタキャンが悪質であり、例えば最初から相手を欺く意図があった、あるいは正当な理由がないにもかかわらず高額な損害を認識しながらキャンセルしたといった、一般的な社交の範囲を超える悪質な事情がある場合には、不法行為(民法第七百九条)に基づく損害賠償が認められる可能性もあります。しかし、単なるデートのドタキャンが悪質な不法行為と認められるためには、相当に高いハードルがあることを理解しておく必要があります。
ドタキャンで発生した費用を請求するために
請求対象となる具体的な「損害」の範囲
ドタキャンによって生じた費用の中でも、法的に請求が認められやすいのは、直接的かつ客観的に証明できる「損害」です。
具体的には、予約した飲食店のキャンセル料や、旅館の予約金など、予約行為に直接紐づいて発生し、第三者への支払いが証明できる費用です。また、新幹線や特急列車など、長距離移動のために予約し、相手もその移動を承知していた場合の往復交通費も、合理的な範囲内の損害として認められる可能性があります。
反対に、認められにくい損害としては、精神的な苦痛に対する慰謝料、デートのために購入した服や美容院代などが挙げられます。これらの費用は、ドタキャンとの間に直接的な因果関係があると認められにくく、特に慰謝料は、単なるデートの約束破りでは認められることは極めて稀です。
請求を実現するための重要な「証拠」
法的な請求を行ううえで、何よりも重要なのは客観的な証拠です。証拠がないと、たとえ真実であっても法的な主張は通りません。
まず、約束の立証のために、マッチングアプリ上のメッセージ履歴をすべて保存しておく必要があります。これには、デートの日時や場所、そして特に費用の負担に関する合意(「費用は半分ずつ出す」など)が明確に記載されていることが望ましいです。
次に、損害の立証のための証拠です。キャンセル料の支払い証明、予約した店舗からの予約確認メール、交通機関の領収書やチケットなど、金額と日付が明確に確認できる客観的な書類を全て収集し、整理しておくことが不可欠です。
法的な請求の具体的な流れと行政書士の役割
損害賠償を求める第一歩として、相手方へ法的な意思を明確に伝えることが有効です。その手段として一般的に用いられるのが「内容証明郵便」の作成と送付です。
内容証明郵便は、いつ、誰が、誰に対して、どのような内容の文書を送ったのかを郵便局が公的に証明してくれる仕組みです。これにより、あなたの請求が単なる個人的なメッセージではなく、法的な意図に基づいたものであることを相手に示し、話し合いや支払いに応じるよう促す心理的な効果を期待できます。
この内容証明郵便の作成において、私たち行政書士が専門家としてサポートを提供できます。行政書士は、法的な根拠に基づき、正確かつ適切な文面で文書を作成します。感情的にならず、冷静に損害の事実と請求の根拠を伝えるための文書作成を通じて、あなたの損害回復の第一歩を支援します。また、内容証明送付後の示談交渉に関するアドバイスや、交渉に必要な文書の作成サポートも行います。
専門用語の解説:債務不履行と不法行為
ここで、記事内で使用した二つの重要な法的な概念について簡単に説明します。
債務不履行とは、契約が成立した後、一方の当事者が正当な理由なく契約上の義務を果たさない状態を指します。例えば、特定の日時に待ち合わせ場所に来るという約束が契約と見なされる場合、ドタキャンは、この約束を破る行為(履行遅滞や履行不能)にあたり、債務不履行に基づく損害賠償責任が発生します。
不法行為とは、契約関係がない場合でも適用される可能性のある法的な責任です。故意や過失によって、他人の権利や法的に保護される利益を侵害し、損害を与えた場合に、その損害を賠償する責任を負うというものです。悪質なドタキャンや、騙す意図があったと認められるような特殊なケースで、この不法行為による請求が検討されることがあります。
ドタキャンによる金銭的リスクを未然に防ぐための注意点
予約時のリスク回避策
法的措置を検討する前に、まず可能な限りリスクを避ける行動が大切です。高額なキャンセル料が発生する可能性のある店舗を予約する際には、相手との関係の深さや信頼度を考慮し、慎重になるべきです。
もし高額な予約金が必要な場合は、予約前にメッセージ上で「キャンセルになった場合の費用負担」について明確に合意を得ておくことが最も重要です。「キャンセル料は折半する」といった具体的な合意を文字に残すことで、万が一の際の請求の根拠がより強固なものになります。
法的措置を検討する前に考えるべきこと
実際に損害が発生した場合、すぐに法的措置に踏み切るのではなく、費用対効果を冷静に検討する必要があります。請求したい金額が、内容証明郵便の作成や送付にかかる費用、そして訴訟に至る可能性を考慮した時間と労力に見合うかどうかを考える必要があります。請求額が少額すぎる場合は、たとえ法的な正当性があったとしても、手続きにかかる費用の方が高くついてしまう可能性があります。
金銭的な損害が発生し、相手方との話し合いができない状況になった際は、まずは専門家にご相談ください。特に、数万円以上のキャンセル料や交通費など、具体的な金銭的損害が発生している場合は、専門家が介入することで、冷静で適切な解決への道筋が見えてきます。
記事のまとめ:不当な損害は専門家に相談を
マッチングアプリでのドタキャンによる損害は、証拠と法的な根拠さえあれば、回復を求めることができる可能性が十分にあります。キャンセル料や交通費といった客観的に証明できる直接的な損害は、法的な請求の対象となり得るものです。
不当な損害を受け入れて泣き寝入りするのではなく、まずはメッセージ履歴や領収書などの証拠を収集し、専門家にご相談ください。行政書士事務所は、内容証明郵便の作成などを通じて、冷静かつ適切な手段で損害回復をサポートいたします。



