旅館業の許可を取った後に「一番大切」なこと:稼働率よりも大事な「手残りの利益」を増やすための教科書
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はじめに:本当の戦いは「許可」の後に始まります
旅館業の営業許可、本当におめでとうございます!保健所や消防局との長く、時に気の遠くなるようなやり取りを終え、ようやく手にした「営業許可証」。その重みを感じながら、スタートラインに立たれた今の心境はいかがでしょうか。「これでようやく一安心だ」「明日からやっとお客さんを迎えられる」と、胸をなでおろしている方も多いはずです。
しかし、行政書士として数多くの宿の立ち上げから経営の軌道乗りまでを見てきたからこそ、今のあなたにあえてお伝えしたいことがあります。行政との「書類上の戦い」が終わったその瞬間、次はマーケットという荒波の中での「数字の戦い」が幕を開けます。
建物が完成し、いざ運営が始まってから経営者を一番悩ませるのは、実は法律や条例ではありません。「今日、このお部屋をあといくらで売ればいいのか?」「予約は入るけれど、なぜか手元にお金が残らない」という、在庫と価格のシビアなコントロールです。
せっかく取った許可を、一生モノの財産にするか、あるいは重荷にしてしまうか。それは、これからあなたが「いかに賢く売るか」にかかっています。今回は、単に「泊まってもらう」だけでなく、利益をしっかり手元に残すための「レベニューマネジメント」の本質について、1000字加筆した特別版としてお話しします。
お部屋は「生もの」だと考えましょう
ホテルや民泊のお部屋を売るというビジネスは、実はスーパーの野菜や鮮魚を売るのと非常によく似ています。今日売れ残ってしまった1室を、明日に持ち越して「今日は昨日の分も合わせて2室分売ります」ということは物理的に不可能です。
夜が明け、新しい一日が始まった瞬間に、昨日売れなかったお部屋の価値は「ゼロ」になります。この「時間の経過とともに消滅する在庫」をいかに有効に活用し、機会損失を最小限に抑えるかが、宿泊業における利益最大化の鍵となります。
予約サイトを一括管理する道具を使いましょう
楽天トラベル、Booking.com、じゃらん、Airbnb……。今の時代、集客のために複数のサイト(OTA)に出すのは当たり前ですが、手作業で1つずつ在庫を更新するのは、二重予約(ダブルブッキング)という最大のトラブルを招く元です。
専用の管理ツール(サイトコントローラー)を導入し、どこかで予約が入ったら自動で他のサイトの在庫も一瞬で減るようにしましょう。これは単なる事務作業の効率化ではありません。「在庫が切れているかもしれないから予約を止める」という臆病な経営を排除し、最後の1室まで攻めの姿勢で売り切るための、不可欠な「未来への投資」です。
あえて「売らない」という高等テクニック
毎日お部屋が満室なのは、経営者として最高の気分かもしれません。しかし、実は無理をして満室にしている場合、知らず知らずのうちに損失を出していることがあります。
たとえば、清掃スタッフが足りず、無理に稼働させたことでお掃除が雑になれば、お客さんのレビューが下がり、将来の予約を失います。また、3連泊したいという優良なお客さんのために、あえて中日の1泊の予約を止めておく(ブロックする)といった戦略も重要です。「今日はメンテナンスのために閉める」「高単価な連泊客を待つために1泊客を断る」といった戦略的な売り止めも、立派な経営判断なのです。
キャンセル料のルールで「防波堤」を作る
2026年現在、旅行者の動きは非常に早くなり、また「とりあえず予約」をして直前に選別する傾向も強まっています。直前のキャンセルで空いた穴を、数時間で埋めるのは至難の業です。
「3日前からは100%の料金をいただく」など、自分の利益とスタッフの労力を守るための強気なルール設定を検討してください。「キャンセル無料」は集客には強いですが、経営を不安定にする劇薬でもあることを忘れないでください。自分の宿の価値を守る防波堤を、しっかりと築きましょう。
お部屋の値段は「需要」で決めるのが今の常識
「平日は1万円だから、休日はちょっと上げて1.5万円かな」といった固定観念は、今すぐ捨ててください。今の時代、お部屋の値段は毎日、時には1日に何度も変わるのが当たり前です。これを「ダイナミック・プライシング」と呼びます。
値段を柔軟に変えるやり方
近くで大きなコンサートがあったり、大型連休だったりするとき。お部屋を探している人が爆発的に増える日は、いつもの3倍、5倍の値段でも予約は入ります。逆に、誰も歩いていないような暇な日に高い値段のままにしておくのは、お客さんを逃しているのと同じです。
「この日はなぜこんなに予約が入るのか?」と常にアンテナを張り、地域のイベント情報をカレンダーに書き込んでおきましょう。2026年の旅行者は情報の感度が高いため、あなた自身も地域で一番の「情報通」である必要があります。
予約のタイミングで値段を調整する
「早割」で早めに予約を埋めることは、経営の安心材料になります。しかし、全室を早割で埋めてしまうのはもったいない。稼働の半分が埋まったら、残りの半分はあえて値段をぐんと上げ、どうしてもその日に泊まりたい「高くても泊まってくれるお客さん」を狙い撃ちにする。この姿勢が、平均的な客単価(ADR)を引き上げます。
逆に、直前まで売れ残っている場合は、思い切った値下げをしてでも空室を埋める勇気も必要です。ただし、これをやりすぎると「直前まで待てば安くなる宿」だと思われてしまうので、使い分けが重要です。
ライバルの動きを「毎日」チェックしましょう
近くにある同じようなグレードの宿が「今、いくらで出しているか」を毎日確認してください。相手がすでに満室で売り切れていれば、あなたの宿はさらに強気の値段設定にしても選んでもらえます。これはインターネット上のカレンダーを見ればすぐにわかる、最も手軽で効果的な市場調査です。
「忙しいのに儲からない」という落とし穴に注意
宿泊経営で最も警戒すべきなのは、たくさんお客さんは来るけれど、手元にお金が残らない「貧乏暇なし」の状態です。次の2つのパターンを比べてみましょう。
- パターンA: 10部屋のうち8部屋が売れた。値段は20,000円。(売上16万円)
- パターンB: 10部屋がすべて売れた(満室)。値段は16,000円。(売上16万円)
この2つ、売上は同じ16万円ですが、最終的な利益が出るのは圧倒的に「パターンA」です。
パターンBは満室で活気があるように見えますが、パターンAよりも2部屋分、お掃除代、シーツの洗濯代、水道光熱費、アメニティ代が多くかかっています。さらに、お部屋や備品が傷むスピードも早くなります。「満室にすること」を目的にしてはいけません。「利益を最大にすること」を常に意識しましょう。安易な値下げは、自分の首を絞めるだけではなく、宿のブランド価値さえも毀損しかねません。
旅行者が求めているもの
今の時代の旅行者、特に海外からのお客さんは「安さ」だけを求めているわけではありません。彼らが求めているのは、支払った対価に見合う、あるいはそれを超える「価値」です。
価値を高めて値段を上げる
「ただ寝るだけの場所」ではなく「ここでしかできない体験」をセットにしましょう。たとえば、地元の飲食店と提携した特別な朝食や、お部屋で楽しめるこだわりの地酒、あるいは地域の歴史をまとめた手作りのガイド。これらが少し加わるだけで、宿泊代を数千円上乗せしても、お客さんは納得して選んでくれます。
リピーターを「ファン」に変える工夫
新規のお客さんを呼ぶには、予約サイトへの手数料(10%〜15%)や広告費がかかります。しかし、一度泊まってくれたリピーターさんは直接予約してくれる可能性が高いです。
「また来てください」という手書きのメッセージや、リピーター限定の特典を用意することで、予約サイトに手数料を払わなくて済む「直接予約」を増やしましょう。これが、実は手元に残るお金を増やすための一番の近道です。
利益を増やすための具体的なステップ
これから宿を盛り上げていくために、今日から始めてほしい3つのステップがあります。
- データを集めて予測する: 去年の同じ日はどうだったか、周辺でどんなイベントがあったか、天気はどうだったか。これらを記録しておくと、いつ値段を上げるべきかの「波」が見えてきます。2026年は自動予測ツールも進化していますが、まずは経営者自身が現場の感覚を掴むことが大切です。
- お客さんのタイプに合わせる: インバウンド客、ビジネスマン、家族連れ。それぞれのタイプに合わせて、「この人たちが喜びそうなプランと値段」を出し分けましょう。外国人には「長期滞在プラン」、ビジネスマンには「素早いチェックアウトと領収書プラン」といった具合です。
- 毎日10分だけ数字を見る習慣: 毎日少しずつ予約状況を見て、値段を1,000円変える。その小さな習慣が、数ヶ月後の通帳の残高を大きく変えます。「数字と向き合う時間」を毎日のルーチンに組み込みましょう。
経営の「守り」から「攻め」へ
行政書士の本来の仕事は「許可を取ること」までかもしれません。しかし、私の願いは、せっかく誕生したあなたの宿が地域で愛され、しっかり利益を出し続けてくれることです。
許可を取るまでの手続きという「守り」が終わったら、次は「どうやって稼ぐか」という「攻め」の段階です。
- どうすればリピーターが増えるのか?
- どのシステムが自分の宿の規模に合っているのか?
- もっと値段を上げるために、どこを改善すればいいのか?
運営の仕組み作りや、信頼できる業者のご紹介など、経営の「攻め」の部分でも私はあなたのお力になれることがあります。行政書士という枠を超えて、あなたの宿の「ビジネスパートナー」としてサポートいたします。
もし「値段の付け方がわからない」「どのITツールを使えばいいのか迷っている」という不安があれば、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。許可という通行証を手に入れた今、あなたの宿が持つ本当の実力を、しっかりとした利益という「結果」に変えていきましょう。
