戸建て1階の民泊を「旅館業」に切り替える完全ガイド|準備と実務のポイント

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はじめに|なぜ今、民泊から「旅館業」への切り替えが必要なのか

現在、ご自宅の1階部分(外から直接入れるワンルームなど)を民泊として貸し出しているオーナー様の間で、運営スタイルの見直しが進んでいます。その大きな理由が、住宅宿泊事業法(民泊法)から「旅館業法」への切り替えです。

民泊法では、1年間に営業できる日数が「180日」までと決められています。そのため、予約が入りやすい連休や観光シーズンであっても、上限を超えると営業を止めなければなりません。2025年インバウンド需要が完全に定着し、特に家族連れや長期滞在者が「一軒家のようなプライベート空間」を求めている今、この180日の壁は非常に大きな機会損失になっています。

「日数の制限をなくして、1年中運営したい」

これを実現するには、法律上の扱いを旅館業法(主に簡易宿所営業)に変える必要があります。ただし、旅館業に変えるには建物のルールや消防のルールが非常に厳しくなります。本記事では、その具体的な準備内容と手続きのポイントを、初心者の方にも分かりやすく解説します。

第1章:旅館業への切り替えで確認すべき「法律の壁」

民泊は「住宅」としてのルールですが、旅館業は「ホテル・旅館(宿泊施設)」としてのルールが適用されます。切り替えにあたって、まずは以下の内容を確認してください。

1. 建てられる場所かどうかの確認(用途地域)

民泊は住宅街の多くで運営可能でしたが、旅館業は「第一種低層住居専用地域」などの静かな住宅地では、原則として営業が認められません。まずは市役所などで、自分の家が旅館業の許可をとれるエリアにあるかを確認することがスタート地点です。地域によっては、独自のルールでさらに制限がかかっている場合もあります。

2. 建物の使い道を変える手続き(用途変更)

家の使い道を「住宅」から「宿泊施設」に変える際、その面積が200㎡を超える場合は、役所への正式な申請が必要になります。今回のケース(1階のワンルーム)なら面積は小さいことが多いですが、それでも建物全体が今の建築基準法(火災に強い構造や避難経路など)に合っている必要があります。2025年以降、古い建物の活用については、地震への強さや安全性に対する自治体のチェックがより厳しくなっています。

第2章:準備のメイン|消防設備のルールが変わる

旅館業に切り替える際、最もコストと手間がかかるのが「消防署への対応」です。一般の家よりも、厳しい火災対策が求められます。

1. 火災報知器の設置方法

民泊では電池式の簡易的な火災報知器が認められることもありましたが、旅館業では原則として、すべての部屋が配線でつながった本格的なシステムが必要になります。例えば1階で火が出たときに、2階の自宅部分にもすぐに警報が鳴り響くような仕組みが求められます。

2. 誘導灯(逃げ道のサイン)

避難口を示す「緑色の光る看板(誘導灯)」の設置が必要です。これも電池式ではなく、常に電気を通しておくタイプが基本です。また、部屋の窓が小さかったり、道路までの距離が遠かったりする場合は、追加の避難設備が必要になることもあります。

3. カーテンやカーペットの素材

旅館業では、室内のカーテン、じゅうたん、布製のブラインドなどはすべて「燃えにくい素材(防炎性能)」でなければなりません。これらは消防検査で「防炎ラベル」が付いているか厳しくチェックされます。すでにあるものを使い回すのではなく、買い替えが必要になるケースが多いです。

第3章:部屋のつくりと「衛生管理」の新しいルール

旅館業法では、泊まる人の健康を守るための基準が細かく決まっています。

1. 部屋の広さと定員

簡易宿所の場合、1人あたり3.3㎡以上の広さが必要です。2025年以降、自治体によっては独自の条例を改正し、プライバシー保護や感染症対策のために、1人あたりの必要面積をさらに広く設定するケースが増えています。これまで4人泊めていた部屋が、旅館業では3人までしか認められない、といったこともあるので事前の計算が重要です。

2. 水回りの設備

1階が独立したワンルームで、専用のトイレや洗面所がある場合は有利です。しかし、複数の部屋を旅館業にする場合、宿泊人数に合わせた洗面台の数やトイレの個数が条例で決まっているため、水道工事が必要になる場合があります。また、お湯の温度管理など、レジオネラ菌対策を求められることもあります。

第4章:フロントの代わりとなる「IT設備の活用」

以前は「対面でのフロント」が必須でしたが、現在はIT機器を使うことでフロントを置かない運営も可能になりました。ただし、管理のルールは以前より厳しくなっています。

1. ビデオ通話による本人確認

フロントがない代わりに、入り口などにタブレットを設置し、泊まる人の顔を確認しながらパスポートのチェックなどを行う仕組みが必要です。この映像は録画し、一定期間保存することが義務付けられています。また、画面が暗くて顔が見えないといったことがないよう、照明の明るさも指定されることがあります。

2. すぐに駆けつけられる体制(10分〜15分ルール)

管理者が常にいない施設の場合、トラブル時に近隣からスタッフが10分程度で駆けつけられる体制が必要です。2025年の条例改正では、この「駆けつけ」の迅速さを証明する書類や、緊急連絡先を近隣住民に分かりやすく提示することを義務付ける自治体が目立っています。オーナー様が2階に住んでいる場合は、このルールをクリアしやすいため非常に有利です。

第5章:近隣住民とのトラブルを防ぐために

旅館業の許可をとるには、地域の人たちへの説明が欠かせません。2025年以降、多くの自治体で住民とのトラブルを避けるための「独自ルール」が強化されています。

1. 事前の住民説明

許可を申請する前に、近隣の住民に「どのような施設にするのか」「ゴミ出しや騒音の対策はどうするのか」を説明する義務がある地域が増えています。ここで反対が起きると手続きが止まってしまうため、誠実な対応が求められます。説明会の開催や、説明資料のポスティングが必須となる場合もあります。

2. 周辺施設への確認

家の近く(約200m以内)に学校や図書館、公園などがある場合、保健所が「教育に悪い影響がないか」を確認する手続きが入ります。これには1ヶ月程度の時間がかかるため、余裕を持ったスケジュールが必要です。

第6章:2025年以降の規制強化|見落としがちな最新のチェックポイント

2025年から2026年にかけて、宿泊施設の質を保つためのルールがさらに厳しくなっています。特に注意すべき点を追加で解説します。

1. ゴミ出しルールの厳格化

民泊の時は「家庭ゴミ」として出せていた地域でも、旅館業(事業用)に切り替えると、すべてのゴミが「事業系廃棄物」扱いになります。最近の条例では、ゴミの保管場所を外から見えない位置に設置することや、民間の回収業者との契約書を許可申請時に提出させる自治体が増えています。

2. 騒音対策の電子化

2025年以降、一部の観光都市では「騒音センサー」の設置を推奨する動きがあります。一定の音量を超えるとオーナーに通知が行くシステムの導入を検討してください。また、窓の二重サッシ化など、物理的な防音対策を許可の条件として指導されるケースも増えています。

3. 外国語対応の義務範囲

以前よりも、多言語での案内が強く求められるようになっています。避難方法や設備の使い方はもちろん、地域のマナー(夜間の静粛や喫煙ルール)について、主要な数カ国語での提示が必須となっています。

第7章:実例から学ぶ!切り替え時に起きやすい「失敗」と「解決策」

1. 2階との「仕切り」が不十分だったケース

1階が独立していても、階段部分が吹き抜けになっていたり、簡易的なドア1枚で仕切られていたりする場合、消防署から「これでは家全体を宿泊施設とみなす」と言われることがあります。この場合、2階の自宅部分まですべてに高額な消防設備が必要になります。これを防ぐには、事前に「防火戸」などのしっかりとした仕切りを設置する計画を立てる必要があります。

2. 役所の窓口で「たらい回し」にされるケース

保健所、消防、建築の各部署で意見が異なり、板挟みになってしまうオーナー様が少なくありません。2025年以降、手続きが複雑化しているため、初期段階で全体の図面を用意し、すべての部署と同時に調整を進めるのがコツです。

第8章:365日運営で利益を最大化するための戦略

1. 「長期滞在」との組み合わせ

旅館業の許可があれば、数日の観光客だけでなく、1ヶ月以上の長期滞在者の受け入れも法的な不安なく行えます。ワーケーション利用や、リフォーム中の一時住まいとしての需要も取り込めるようになります。

2. 閑散期の集客を強化できる

民泊では「180日をいつ使うか」という逆算が必要でしたが、365日営業なら、予約が入りにくい時期に宿泊料金を下げるキャンペーンを打ち出すなど、年間を通じた安定経営が可能になります。

第9章:コストとスケジュールの目安

準備には、だいたい4ヶ月から半年程度の期間がかかると考えておきましょう。

  • 相談期間(1ヶ月): 保健所、消防署、市役所への事前確認。
  • 工事期間(1〜2ヶ月): 消防設備の取り付けや、IT機器の導入。
  • 審査期間(1ヶ月): 書類を出してから、現地検査を受けて許可が出るまで。

費用は、消防設備の工事に数十万円から100万円程度かかることが多いですが、365日営業できるようになれば、1年〜2年程度で十分に回収できる投資と言えます。

第10章:専門家に頼むべき「本当の理由」とは

旅館業への切り替えは「単なる書類の提出」ではなく「建物の改造と法的な調整」の連続です。プロに依頼する最大のメリットは、「無駄な工事を省き、最短ルートで許可をとれる」ことにあります。

知識がないまま工事を進めてしまうと、後から「この設備ではダメだ」と言われ、追加で何十万円もかけてやり直すといった悲劇が起こります。専門家は、最初の調査で「どこを直せばいいのか」「どうすれば安く済むか」を判断し、役所との難しい交渉もすべて代行します。

まとめ|本格的な宿泊ビジネスへのステップアップ

自宅の1階を「民泊」から「旅館業」に変えることは、副業から「1年中稼働する本業の宿泊ビジネス」に育てることを意味します。2025年以降、自治体のチェックは厳しくなっていますが、その分、許可を得た施設の信頼性は格段に高まります。

まずは、今の建物がどの程度旅館業の基準に近いのか、現状を把握することから始めてください。その一歩が、将来の大きな収益に繋がります。

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※本記事は2025年、2026年時点での一般的な法令解釈に基づいています。実際のルールは建物の構造や自治体の最新条例により判断が大きく異なります。具体的な改修や申請については、必ず管轄の保健所、消防署、または専門家へのご相談をお願いいたします。