住宅宿泊事業における180日制限と契約書提示の要請にどう対応するか
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導入文:住宅宿泊事業と行政の監視体制
住宅宿泊事業法が施行されて以降、民泊の健全な運営を確保するために、行政による監視や指導の動きが全国的に強まっています。
特に、年間提供日数の上限である180日を超えている、あるいはそのおそれがある物件については、行政がその運営実態を把握するために、関係書類の提出を求めてくることがあります。
実際に、東京都渋谷区ではそのような事例が報告されており、物件数が多い事業者にとっては、対応に相当の負担がかかる状況が発生しています。
本記事では、行政からの資料提出要請にどう対応すべきか、法律上の根拠やリスクをふまえて解説します。
行政が求める賃貸借契約書の提示と背景
住宅宿泊事業には、1年間で最大180日という営業日数の上限が設けられています。この上限を守っているかどうかを行政が確認するために、事業者に対して提出を求めてくる資料のひとつが賃貸借契約書です。
とりわけ、物件ごとの日数管理が不十分であると見なされた場合には、個別の事実確認が必要と判断され、すべての物件について契約書の提示を求められることがあります。
渋谷区のケースでは、数十件におよぶ物件に対して一括で契約書を出すよう求められ、事業者側では短期間で対応することが困難であるとの声も上がっています。
行政は、制度上限を遵守しているかどうかを確認する責務がありますが、現場での実務負担が大きくなっているのが実情です。
行政指導の法的性質と対応の柔軟性
行政からのこのような要請は、住宅宿泊事業法に基づく「行政指導」として行われているものであり、強制力を伴うものではありません。
つまり、事業者は一定の協力を求められる立場にありますが、あくまで法的には任意の協力であるという点が重要です。
行政指導の性質上、対応方法について交渉することは可能です。すべての物件について一律に契約書を提出することが業務上困難な場合には、対象物件を抽出して対応したい旨を伝えることは、手続き上の選択肢としてありえます。
行政の権限と任意協力の限界
ただし、行政が任意の協力を求めた結果、事業者がこれに応じなかった場合には、住宅宿泊事業法第17条に基づいて、より強制力を持つ対応に移行する可能性があります。
この条文では、行政が事業者に対して報告徴収や現地調査(立入検査)を行うことができると定められており、事業の適正な運営を確保する目的で用いられます。
さらに、同法第76条第5号では、正当な理由なく報告や立入調査を拒否した場合には、30万円以下の罰金が科される可能性があることが明記されています。
したがって、行政指導の段階で誠意をもって協議し、実現可能な方法で協力することが、結果として事業者の負担やリスクを最小限に抑えることにつながります。
現実的な対応方針の検討
すべての物件について一括で資料を提出することが困難な場合、事業者としては、宿泊提供日数の多い物件や、過去に指摘を受けた履歴のある物件から優先的に対応する方針を提案することが考えられます。
行政とのやり取りにおいては、提出の必要性や作業量を丁寧に説明し、実現可能なスケジュールや対象範囲について交渉することが求められます。
また、提出資料に不備がないよう、事前に内容を精査し、必要に応じて補足説明を添えることで、行政との信頼関係を維持しやすくなります。
このように、協力の意思を示しつつ、合理的な範囲での対応を行うことで、過度なリスクを回避できます。
専門家に相談する意義
住宅宿泊事業の運営において、行政対応は避けて通れない領域です。とくに、提出資料の内容や形式に不安がある場合や、交渉が難航している場合には、行政手続に精通した専門家に相談することが有効です。
リーリエ行政書士事務所では、住宅宿泊事業に関する届出や運営支援だけでなく、行政とのやり取りに関するサポートも行っています。現場対応でお困りの事業者様は、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ
住宅宿泊事業において、行政から提出を求められる資料の範囲や件数は、事業者にとって大きな負担になることがあります。しかし、行政指導はあくまで任意協力であるため、すべてを無条件に受け入れる必要はありません。
現実的な対応策を模索し、必要であれば専門家の支援を受けながら、適切な方法で協議することが、長期的な事業運営の安定につながります。
