住宅宿泊事業者が行政指導と書面請求対応を理解すべき理由

東京都江東区に拠点を構えるリーリエ行政書士事務所では、住宅宿泊事業者の皆様から行政対応に関するご相談を数多く受けています。

近年、住宅宿泊事業に対する社会的な関心が高まり、地域住民との関係や法令順守の重要性が増しています。

その中でも特に注目されているのが、行政指導への対応と書面交付の請求に関する問題です。住宅宿泊事業法や各自治体の条例は、事業者の活動に直接影響するものであり、行政からの指導にどのように対応するかは、今後の運営に大きな影響を与える可能性があります。

行政指導の性質と法的拘束力

行政指導とは、行政機関が特定の法律に基づいて、対象となる個人や法人に対し、任意の協力を求める行為を指します。

これはあくまで「指導」であり、法的な強制力を持つ「処分」とは異なります。そのため、行政指導に従うかどうかは原則として事業者の自由であり、義務ではありません。

しかし、住宅宿泊事業においては、住宅宿泊事業法第17条によって行政機関に報告徴収や立入調査の権限が付与されており、行政指導を軽視することは結果として不利益を招く可能性があります。報告を拒否した場合、同法第76条第5号により30万円以下の罰金を科される場合があります。

書面交付の法的根拠と実務対応

行政指導が口頭で行われた場合でも、対象者がその内容を記録として残すことは極めて重要です。

例えば、渋谷区では、住宅宿泊事業の実態把握のため、すべての物件に対して賃貸借契約書の提示を求める動きがありました。このような指導は、事業者にとっては相応の負担を伴いますが、渋谷区行政手続条例第33条第3項により、行政指導の内容について書面での交付を求めることが可能です。

この条例は、行政指導が口頭で行われた場合においても、相手方からの請求があれば、行政上の特別な支障がない限り、書面での交付が義務付けられていることを定めています。

また、第2項では、行政が許認可や処分の権限を行使することを示す際には、その根拠となる法令や条例の条項、適用の要件、そして具体的な理由を明示する必要があるとしています。

このことから、行政からの指導を受けた際には、「渋谷区行政手続条例第33条第3項により書面の交付を求めます」と伝えることは法的に裏付けのある行動であることが分かります。

慎重な対応が求められる理由

一方で、行政指導に対して書面交付を強く求めることが、かえって事業者にとって不利に働く可能性もあります。特に、住宅宿泊事業法第10条に違反している疑いがある場合には、行政がより厳格な監視体制を敷く可能性があります。

このような状況では、あえて対立姿勢を取らず、丁寧かつ冷静な対応を心がける方が、長期的には事業の安定につながる可能性があります。

行政との信頼関係を維持することは、将来的な行政手続きや立入検査の際にも有利に働くことが少なくありません。そのため、書面交付を求めるかどうかは、事業者の現状や行政との関係性を踏まえたうえで、慎重に判断する必要があります。

他社事例にみる実務的対応

実際の現場では、行政専用の電話番号を用意し、行政機関からの連絡はその番号で受けるようにしている事業者も存在します。これにより、行政対応の記録を体系的に残すことができ、万が一のトラブルにも迅速に対応しやすくなります。

また、住宅宿泊事業法施行規則第8条第2項第2号では、宿泊者に対するごみ処理に関する注意喚起が事業者の義務とされています。この義務は、単に書面での掲示を行うというだけではなく、現実的に宿泊者が内容を理解し、適切に行動できるように工夫することが求められています。

こうした地道な取り組みが、地域住民との良好な関係を築く基盤となることは言うまでもありません。

住民トラブルと事業者の責任の限界

住宅宿泊事業を営む上では、住民との間でトラブルが生じることもあります。

たとえば、ポイ捨てや騒音といった行為について、行政が事業者に対して「宿泊者によるものであることを証明せよ」と求めるケースが報告されています。しかし、実際にそうした行為が宿泊者によるものかどうかを事業者が特定することは困難です。

このような場合、新宿区行政手続条例第33条第2項および第3項に基づいて、行政からの指導の根拠や要件、理由などを明記した書面の交付を求めることは合理的な対応と言えます。事業者が過度な責任を負わされないよう、法に基づく対応を行うことが重要です。

まとめ

住宅宿泊事業を運営するにあたっては、行政とのやり取りを冷静に、かつ法的根拠に基づいて行うことが不可欠です。

行政指導に対する書面交付の請求は、条例によって認められた正当な手続きですが、実際に行使するかどうかは事業者の判断に委ねられます。行政との関係や事業運営の実態に応じて、最適な対応を選択することが、安定した事業の継続につながります。

リーリエ行政書士事務所では法律の専門家として、今後も適切な行政対応について分かりやすく情報を提供していく予定です。