死後事務委任契約とは?似た制度との違いや契約の流れを解説

死後事務委任契約とは

死後事務委任契約とは、死後の事務手続きを第三者に依頼する契約です。

人が亡くなった後は様々な手続きの必要性が生じます。一般的には亡くなった人の親族が手続きを行いますが、頼れる人がいない・親族に迷惑をかけたくない等の考えを持つ人は珍しくありません。死後事務委任契約は、死後の手続きに関する不安を解消するのに有用な制度です。

死後事務委任契約で依頼できる内容として以下の例が挙げられます。

  • 葬儀に関する内容
    遺体の引き取り、親族や知人への連絡、葬儀の手続き等
  • 行政手続き
    死亡届の提出、健康保険や年金保険の解約、税金の支払い等
  • その他生活関連
    医療費の精算、賃貸物件の解約や家財の処分、水道光熱費の支払いや解約手続き、PCやスマートフォンの個人情報の抹消等

事務作業に限らず、死後に発生する幅広い手続きをまとめて死後事務と呼びます。

死後事務委任契約と似た制度との違い

この章では、死後事務委任契約と似た制度2つについて、それぞれの概要および死後事務委任契約との違いを紹介します。

任意後見契約との違い

任意後見契約は認知症等により判断能力が不十分になった場合に備えて、判断能力が十分なうちに身上監護や財産管理等を他者に依頼する契約です。

任意後見契約と死後事務委任契約の違いとして以下の3点が挙げられます。

  • 契約の効力が発するタイミング
    死後事務委任契約は委任者の死後、任意後見契約は判断能力に不安が生じたタイミングです。判断能力に問題が生じなければ、任意後見契約の効力は発生しません
  • 依頼できる内容
    死後事務委任契約は死後に発生する手続きを依頼できます。任意後見契約は判断能力に不安が生じた後の身上監護や財産管理が依頼できる内容となります
  • 公正証書の必要有無
    任意後見契約は公正証書の作成が必須です。一方、死後事務委任契約では公正証書の作成は任意となります

遺言執行との違い

遺言執行とは遺言書の内容を実現するための手続きです。遺言執行を行う人を遺言執行者といいます。

遺言執行と死後事務委任契約の大きな違いは法的な拘束力を有する事項の範囲です。

死後事務委任契約で依頼できる内容として、死後に発生する葬儀・行政手続き・その他生活関連が挙げられます。死後事務委任契約では相続や財産に関する手続きは対象外となります。

反対に遺言執行は遺言の実現、すなわち財産の承継に関する手続きしかできません。遺言執行の範囲として、遺言書の検認・相続人や財産の調査・財産の解約や名義変更手続き等が挙げられます。

死後事務委任契約の流れ

死後事務委任契約の流れは大きく以下の4ステップに分けられます。

  1. 依頼先を決める
  2. 委任する内容を明確にする
  3. 死後事務委任契約書を作成する
  4. 公正証書にする

それぞれの工程について詳しく解説します。

依頼先を決める

死後事務委任契約の代理人に特別な資格は必要ありません。そのため親族や知人への依頼も可能です。ただし、死後事務手続きは煩雑な作業や専門知識が必要な部分もあるため、専門家や業者に依頼するケースが多くみられます。

委任する内容を明確にする

続いて委任する内容を明確にします。

委任する内容は依頼の前に決めることも可能ですが、依頼先によっては対応できない内容が存在する可能性があります。そのため委任内容が確定するのは依頼先が決まってからになるケースが多いでしょう。

とはいえ、委任内容が全く決まっていない状態では依頼先候補の絞り込みを進めにくい可能性もあります。そのため、委任したい内容をある程度決めておくのも1つの手段です。はじめに委任したい内容を大まかに決めておき、依頼先が決まってから改めて委任内容を明確にする方法をおすすめします。

死後事務委任契約書を作成する

委任内容が決まったら、死後事務委任契約書を作成します。口約束でも効力は持ちますが、生前の意思を明確化するために書面を作成するのが安心です。

契約書に委任内容を記載したら、委任者・受任者双方が署名押印を行います。

公正証書にする

死後事務委任契約書はそのままでも問題ありませんが、トラブル防止の観点から公正証書にするのが理想です。

公正証書にするには事前に公証役場へ連絡して日時の予約をした上で、委任者・受任者の双方が公証役場へ赴いて手続きをする必要があります。また、公証人手数料と実印が必要です。費用や持ち物はケースによって異なる可能性があるため事前にご確認ください。